拾われた子犬1998年07月27日 12時07分

1997.11.3 京都市内,鴨川側
どこかにいきたい。
ふと、打鍵の手が止まる。
道具に馴染み、道具に染まる日々。
そんな、虚しい日々をすて、野山を駆けてみたい。

画帳をもって、
どこかの浜を歩いてみたい。
見知らぬ土地を歩いてみたい。
まだ見ぬ人と出会えるだろうか。

鳥の声が聞こえますか。
虫の音をききとれますか。
けもののいきが、見えますか。
日差しがまぶしいですか。汗をかいてますか。

雨にうたれたい。
ぼやけた電光の中を彷徨したい。
安物の香水を嗅いでみたい。
紫の中で、眠りたい。

口が乾くまで、話をしたい。
腕が疲れるまで、殴りたい。
足が棒になるまで、歩きたい。
お前は、どこにいくのか。どこからきたのか。

拾われた小犬。
暖められたのは、お前じゃない。私なんだ。

どこかにいきたい。
捨てられたのは、私。
黙々と打鍵する私だった。
冷却扇の、かすかな唸り音、ほら文明ですよといわんばかり。

 1998.7.27 京都鴨川河畔にて